三浦綾子さんの短編小説『尾灯』を読みました。
『尾灯』は毒麦の季に収録されています。
定年を過ぎて5年が経つ男性。
民間企業勤めのわずかな給与と年金で暮らしている。
お正月、朝から男性は年賀状を心待ちにしている。
その描写が絶妙で、男性が内心そわそわしている様子が何とも可笑しい。
今どき年賀状をこの男性ほど心待ちにする人はいないかもしれない。
三浦綾子さんは1922年(大正11年)生まれで、『尾灯』はひと昔前が描かれています。
私の父も、かつて年賀状を心待ちにしていましたから、『尾灯』の出だしの描写に父の姿が重なりました。
父が現役の頃、年賀状は三百枚はありました。
それが会社を辞めてから、ぐんっと減り、それから徐々に減っていきました。
父はそれを寂しそうに眺めていました。
男性のもとに届いた年賀状に、
(そのうち一度機会がありましたらと思います)
(一度泊りがけで遊びに来て下さい)
こんな一言添えてあったら、それはそれはうれしい気持ちになると思います。
男性は年賀状がきっかけで出かけることにします。
そしてどうなるかは小説でご覧頂くとして、描写が素晴らしい作品でした。